【NAOが行く】タイ編:Day5 燃えよダニエル!タイ・オープン!

コラム

王室御用達の地・ホアヒン

王家御用達の保養地・ホアヒン。元々は漁村だったが、1922年にラーマ7世が、王室のリゾート地として開発した。そこから徐々に国民の間でも「あそこいいわよね」「王室よ?キングよ?」みたいな雰囲気になったそうで、今では多くの人々が訪れる。特に何があるというわけではないが、バンコクの喧騒から逃げ込むにはもってこいの場所である。

僕もタイの大学で勤務していた際、研修旅行で訪れたことがある。僕の人生で唯一の研修旅行はリーダーシップをテーマとして進んでいた。
最初はきちんと話を聞いていたのだが、すぐに『ビーチに行きたい病』を発症してしまった僕は「ビーチで研修を受けてもいいですか。」と学部長に正直に尋ね、苦笑いで親指を立ててもらった。

欧米系の先生たちには「ユーアーアウアーリーダー、ナオ!」とリーダーシップっぷりを褒められ、彼らとビーチ沿いのバーでひたすらカクテルを飲むという厳しい研修を積んだ記憶がある。

今回、我ら一行が宿泊したのはWyndham Hua Hin Resortというホアヒンの中心地から車で30分ほど離れた場所である。自然豊かな敷地と温かなスタッフたちの「サワッディカー」が僕らをリゾート・モードにさせてくれる。

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そして、なんとここにはピックルボール専用コートが4面ある。ダニエル曰く、ホアヒンのホテルでピックル専用コートがあるのはここだけだそうである。ナイター設備はないものの、いつでもピックルを楽しむことができる。

ただし、ホアヒンの日中はハチャメチャ暑いのでピックルをするなら早朝に限る。
オススメプランは「早朝ピックル→朝食・プール→観光・ビーチ→ナイト・マーケット→タイマッサージ」である。
個人的に「人類は早朝にピックルをすると一日の満足度が爆増する」と思っているので、読者のみなさんも、ここで早朝ピックル・プランを満喫してみてはどうだろうか。

試合直前のアドバイス

今週はタイ国内最大級の大会、「Thailand Pickleball Open 2024」が開かれている。

https://pickleball.global/compete/2024-thailand-pickleball-open-1352/about

ちなみに前々日のシングルスでは日本人のマツザカくんが優勝した。日本でいっしょに練習をする彼が結果を残したのは素直にうれしい。

今日は大会最終日で、ミックス・ダブルスの日である。元々はツアーに組み込まれていなかったのだが、この日だけは日程的に行けそうだったので、急遽、出たい人だけエントリーしたのである。
ダニエルはお客さんのナンシーと「35歳以上・5.0+」のカテゴリー、ホアヒン在住の日本人・ユミさんと「19歳以上・5.0+」のカテゴリーに出ることになっていた。

ダニエルに「ナオも試合出る?」と聞かれたので、「出ていいの?自分もダニエルもいなくて、誰がお客さんたちのお世話をするの?」と素朴な質問をすると「…うーん、誰もいないね。ナオはやっぱ出ないで」と返された。おいおい、大丈夫か、ピックルボール・トリップス社…。

ということで、午前の試合に出る人はダニエルとホテルを朝7時に出発、午後から試合の人・試合に出ない人は午前は僕と練習するプランニングで決まった。

朝6時半。部屋を出るとダニエルにバッタリ会う。「まぁ楽しんでくるわ」とグータッチをして去っていった。
僕はのんびりとピックルコートへ向かう。まだ誰も来ていないようだ。
「ホー…ホー…」南国の鳥たちが会話をしている。朝の静かなコートはタイといえども「爽」という漢字がよく似合う。

「グッモーニン」ぞろぞろとハワイアンが集まってくる。試合に出る人と試合に出ない人の顔付きが少し違う。
大会に出るペアと試合をし、最終調整を行った。

試合に向けてのアドバイスとしては「決めごと」をするように伝えた。
例えば、「サードショットはどちらが打つか」「ディンクのミドルはどちらがどこまでとるか」等である。
ミックス・ダブルスにおいては女性にボールが集まることが多く、試合の序盤は特に展開が読みやすい。そこで「どの範囲までを男性がカバーするのか」は試合が始まる前に決めておいた方がいい。

また、「迷った時は声を優先させる」のが鉄則である。
これはダニエルの父であり、シニアチャンピオンのスコットさんから教えてもらった金言だ。
彼はアグレッシブなプレースタイルから「The Beast」と呼ばれているが、ポイント間では野獣っぽさはなく、ダブルスを組みながらイロハを教えてくれた。

ピックルボールはコートの横幅が6メートルちょっとしかない。なのでパドルがかち合ってしまったり、お互いが譲ってしまうことが多々ある。
特に初めて組むパートナーとは試合を進めながら、合わせていくしかないので「声」は大きな意味を持つ。

運転の際の「指示キー」と同じようなもので、声で自分の意志表示をすることによって「事故」を未然に防ぐことができるのである。
みなさんにも日ごろから声と指示キーの出し忘れには注意していただきたい。

試合会場へ

午後、市内観光へと例のカラオケ・バンで出発する。市内までは約8曲ぐらいの距離である。車内でみんなに「何がしたい?」と聞くと「マッサージ!ビーチ!おいしいごはん!」と3つの願いが返ってきたので「たやすい御用だ」と一瞬で叶えた。

この日行ったCoco51 Restaurant & Barはイタリアンだがタイ料理も絶品で、オススメである。

夕方4時ごろ、試合会場へと移動する。
中に入ると懐かしい顔ぶれがズラリ。
アジアの大会や日本でプレーをしたことのある人々との再会を喜ぶ。


「おお~!久しぶり!!」と勢いよくハグをする。この平和的な瞬間がこの上なく好きだ。
そして、ピックルを通じて、より多くの日本人が他の国の人々と交流してもらうことが僕の一番の願いである。たやすくはないが、今後も色んな活動を続けていきたい。

挨拶が済むとお客さんたちの試合を観戦する。どのペアも善戦するも、残念ながら予選で敗退してしまった。
残るはダニエルの「19歳以上・5.0+」の決勝トーナメントのみである。

燃えよダニエル!決勝トーナメント!

ダニエルペアは順調に準決勝まで駒を進めていく。
そして、セミファイナルの相手はなんと僕らのツアーの事務をしてくれているアーンである。
「ナオは私たちを応援してよね」と言われ、もちろん、と頷く。

試合が始まる。序盤、アーンのナイスショットがいくつか決まるとダニエルのスイッチがカチリと入る。こうなると彼を止めるのは難しく、結局、ダニエル・ユミさんペアが決勝へ駒を進めた。


決勝戦。相手はタイ最強ペアと呼び声の高い、オームとファーンである。

僕はオームには去年のアジアオープン、メンズダブルスで負けている。
ちなみにこの時のオームのパートナーはアジアで人気のパドルメーカー「LUNA PADDLE」の創設者である。

パワーで押し込んでくるサウスポーのオームは一度勢いがつくとこちらのペースになかなか戻せない。
試合前、ダニエルは「このペアには負けても全然悔しくないかな」と語っていた。

いよいよ決勝戦。15点マッチ1本勝負。
序盤、トップギアのダニエルが押し込んでいく。ユミさんは落ち着いていて、丁寧にディンクで繋げていてミスがない。あっという間にスコアは11-3でダニエル・ペアがリードする展開となった。
ここでタイ・ペアがタイムアウトをとる。ダニエルは余裕の顔を見せている。

タイムアウト後、タイ・ペアが猛攻をしかける。オームの爆裂フォアが次々に炸裂する。
13-10と猛追を受け、ダニエルがたまらずタイムアウトをとる。

ダニエルの明らかにストレスフルな顔を見て、僕は少し不安になっていた。
「このままダニエルが負けたら、ツアーの雰囲気、めちゃくちゃ悪くなりそう…」
最悪の雰囲気のツアーを引っ張り方を僕は知らない。リーダーシップ研修で学んだことはウォッカ・マティーニの味だけである。
とにかく落ち着いて、とダニエルをコートに送り出す。

しかし、会場をも巻き込んだタイ・ペアはさらに得点を重ね、スコアは13-12の一点差に。
そして次のポイントで事件が起きる。

激しいファイアーファイト(ボレーボレー対決のこと)の末、ダニエルのボールがネットに吸い込まれてしまい、その瞬間、顔を真っ赤にしたダニエルがボールを思い切り蹴りあげ、ネットに突き刺したのである。

これが後世に語り継がれるであろう、「ダニエル・ボールキック事件」である。
常に冷静なダニエルの大爆発に会場全体がしーんと静まり返る。
ハワイのお客さんたち同士も目を合わせ、首を振っている。

「もしこれで負けたら明日以降、ダニエルの前でピックルの話ができないかも…。」
ピックルというワードを避けた『ピックルボール・トリップス』なんてアボカドのないワカモレみたいなもんである。

「おいおい、負けても悔しくないって言ってたのはなんだったんだよ…」
心でボヤキながら祈りを捧げる。勝て…。勝ちなさい…。ツアーリーダー…!

しかし、僕の念も通じずタイ・ペアはとうとう逆転に成功する。
13-14。まさかの大逆転劇に会場全体が最高潮に盛り上がる。

その時である。

「まだいける!!!!」

止まらないタイ人たちの大歓声の中、気づけば自分は思い切り叫んでいた。
はっと我に返り、声に驚いた周囲のタイ人たちに両手を合わせて謝る。個人戦で応援するのを普段は避けているが、つい心の声が表に出てしまった。
これがタイ・ピックル史に刻まれるであろう、「ナオ・まだいけるの叫び2024」である。

僕の念がようやく通じたのか、ダニエルペアがサーブ権を奪い返し、次のサーブで強烈なダニエルのスマッシュが決まる。
「カモン!」野獣の咆哮が響き渡る。カエルの子はカエルの子。The Beastの息子はやはりThe Beastだ。

14-14。デュース。
ピリつく試合展開。絶対に落とせないポイント。
タイ最強ペアの意地と元全米王者のプライドがぶつかり合う。長い攻防の末、ダニエル・ペアが連続で得点する。

15-14。ついにマッチポイント…。
ピンと張りつめた空気から酸素が探せず、呼吸ができない…。観客の僕がタイムアウトをとりたい気分なんですけど…。
とにかく早く終わらせて…という僕の想いは天に通じ、最後はオームのリターンがわずかにサイドアウトし、ゲームセット。

その瞬間、お客さんとコートに飛び出し、ダニエル、ユミさん、そしてなぜかお客さんともハグをし、歓喜の輪を作った。
オームとファーンともガッチリ握手をする。いやはや、本当に見ごたえのある試合だった。



「うわー、本当によかった…」
誰よりも気持ちの入っていた僕の心臓はトクトクと音を立て続け、数分間、おさまることはなく、縮まった寿命の分だけダニエルに請求しようかなと考えてしまうほどだった。

アフターパーティでナイトプール・ピックル!

試合のあとのアフターパーティはこれまた僕の大好きな時間だ。プレイヤーたちとのコミュニケーションだけでなく、他国のピックル事情をよく学べるのである。

今日の会場は試合会場から車で15分ほど離れたところにあるSundance Beach Club。

https://www.sundanceth.com/huahin/

「We are the champion! We are the champion!」カラオケ・バンは大合唱に揺れながら僕らを運ぶ。

会場に着くと今大会の参加者たちが優雅に飲んでいた。
海岸沿いに建てられたオシャレなクラブの雰囲気をぶち壊さないか心配になるぐらい、僕はビュッフェを端から端までガツガツ食べていく。

胃を満たしてまったりしていると、遠くに見えるプールの賑わいに気づく。
どうやらお客さんたちがプールに入って踊っているようだ。
僕も急いで飛び込みに行く。

そして、プールサイドに置いてあったダニエルのバッグにパドルが入っていることに気づく。
「ちょっとボレーボレーしてみようよ!」
パドルが水に入らないように慎重にボレーボレーをする。
下半身が自由に動かせないため、コントロールが難しい。だが徐々にコツを掴み、だんだん楽しくなってくる。

周りのお客さんたちもボールを目で追いかけながら、音楽に乗りながら、歌いながら、キャッキャと楽しんでいる。
激しい試合のあとのまったりとした時間が僕らの頬をゆるませる。
夜のプールに舞うライム・イエローはホタルのごとく宙を飛び続け、長かった僕らの一日を労ってくれた。

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Nishimura Naoya

三重県伊勢市出身。日本語教師として、タイ、コスタリカで働く。2019年にコスタリカ大学勤務時にピックルボールに出会い、ボーダーレスで老若男女混合のコミュニティの中心となっているピックルに強く惹かれる。帰国前には現地の大会で2度優勝。帰国後も日本の主要大会で優勝を重ねる。現在はプレイヤー兼コーチとして活動する傍ら、普及活動にも従事する。ユーモアを混ぜながら、わかりやすく、相手の瞳の奥に立って説明することを心がけている。信条は「尊び、愛す」。挨拶時に「愛し合ってる?世界と」と聞いてくる。

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